Vision

四半世紀先の工学を目指し,今,ロボットの群れを科学する


我々は,有史以前より,様々な人工物を創造し,それらの生み出す機能を日々の生活に利用して今日に至っている.現在,これら高度に発達してきた人工物から,物理的,時間的,あるいは精神的恩恵を常に受けている.人工物は,道具として,手段として,代替として,あるいは世界に存在していなかった全く新しいものとして様々な機能を生み出し発展してきた.そして,飛翔や走行など,特定なものに限定すれば生物を超越できるようにもなったと言えるのではなかろうか.

しかし,よく生物について見ると,生物は人工物が全くかなわない機能を無数に持っている.この代表例は,“繁殖(自己複製)”であろう.これは進化生物学の領域になるであろうが,そのカバーする範囲は深くまた広く,人工物に関する学術領域からは容易には手出しができないと思われる.

一方,そこまで高度に複雑でなくても,未だ十分に真似ることのできていない機能もたくさんある.その一つに,“群れをなす”という行動がある.鳥や魚の群れ,アリやミツハチなどの社会性昆虫の生態など,一個体を見る限りではその個体の意思もなかなか垣間見れずランダムに動いているようではあるが,群れ全体を見ると高度に知的で一個体では到底なしえない優れた能力を発揮していることがある.一般に,これらは自己組織化の機能に由来すると考えられている.動物行動学によれば,個体間レベルで互いに何らかの利他的行動または協力行動が観測され,これが群れ全体で自律分散的に起こり自己組織化に至ると考えられている.

本研究室では,この群れ機能を人工物において実現させるためには,どのような方法があるかを探りたい.近年,人工物としてロボットを取り上げ,“ロボットの群れ”に関する学問分野,すなわち,スワームロボティクス(Swarm Robotics, SR)が注目を浴びるようになっている.工学的な視点からすると,ロボットにさせたい実際のタスクはもちろん多岐に及ぶが,その中でも,従来型ロボットでは複雑度が高く達成困難あるいは達成不可能な課題への適用が期待されている.キラー・アプリケーションとしては,災害現場や宇宙環境などのヒトが安易に活動できないハザードエリアでの探索活動や協調分担作業などが挙げられる.さらに,近未来的な視点からすると,“ロボットの群れ”の設計・製造コストを考えた場合,ロボット単体は比較的単純に設計でき,また,量産効果が見込めるため,トータルコストを抑制できることが期待できる.さらに,特定の作業に限定せずに高い汎用性を持たせられるので,生産システムなどへの産業応用は無限に広がっていると言っても過言ではない.

群れをなすという問題解決法は,生物が数十億年の進化を通して獲得してきたのであるから,実際の生物に学ぶのが本流であると考える.

本研究室では,これを真正面にとらえ,“ロボットの群れ”を探究する.